わをん

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『あいまいな空』

雨が降るでもなく晴れるわけでもないぐずついた曇り空を部屋に無気力に転がりながら憂鬱な気持ちで見ている。あの人のことが好きなのにいつまでも言い出せないでいる俺みたいな天気だった。お前はずっとこのままだよと言われている気がしてきて、そんなわけがあるかと身を起こした。
“今何してる?”とメッセージを入れて、返事を待つ時間から逃げるように家を出て歩く。気を紛らわせていたかったけどスマートフォンの通知を気にしてはポケットから出しては仕舞うのを繰り返して、何度めかのうちに手の中で通知を受け取ったときは取り落としそうになった。
“今ヒマ”
曇り空が画面を覗き込んでくるのを睨み返してメッセージを打つ。
“好きなんだけど、どうしたらいい?”
送信ボタンを震える指で押すと体中の熱がカッとあがった。今度は怖くてスマートフォンを見ていられない。足が向かう先はもうよくわからなくなっていた。
ふとポケットの中でスマートフォンが長く震える。それはメッセージではなく通話の合図だ。ディスプレイにはメッセージを送ったあの人の名前が映し出されている。
「も、もしもし」
「あー、送る人間違えて無い、よね」
「間違えてない、です」
「なんで敬語?」
ふふ、と笑う声が聞こえるので少しだけ緊張がほぐれる。
「今ヒマだからさ、どっかで会おうよ」
「えっ」
「ダメ?」
「ダメじゃない、」
「じゃ、準備できたらまたメッセする」
通話が切れた画面を見つめて立ち尽くしているとディスプレイに水滴がついた。あいまいだった空からついに雨が降り出して、あたりには湿気た土のような匂いが漂っていた。

6/15/2024, 2:36:00 AM