遠くの空へ
「こんばんは」
1人の男がこちらを見てそう言った、
一歩ずつ近づくその足音が怖くて私はそっと後ずさる。目はそらせない。そらせないほどの力強さがそこにはあった。
「馬鹿で浅はかなお姉さん」
「どう?死後の世界は」
肩に置かれた手が冷たくてゾワッとする。
あ、そっか、私、
「わざわざ満員電車に突っ込むとか。いいご趣味だねぇ」
ニヒルに笑った男はどうでも良いけど、と呟いて足元に目をやった。
「まぁあんなところに帰る必要もないけど」
「こっちからしたら、あっちの世界が遠いお空さまな訳よ、御愁傷様」
「私、その、ほんの気の迷いで」
「帰れないよ。」
冷たい目線が突き刺さる。
「後悔しても無駄。あんたが犯したことは大罪。」
「思う存分ここでゆっくりしていきなよ」
これを望んでたんでしょ?と言う。
「見てみなよ。あんたの周りの人間を」
ほらほら、と足で下の世界を指図する。
「悲しんでるようには見えないけど」
そうか。私は。これが嫌で。
「その顔だよ。」
男は、ははっと声を上げて笑った。
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「こんばんは」
私はそう言って、若い男の子の肩に手を掛ける。その肩の暖かみにゾッとする。
「馬鹿で浅はかなお兄さん、どう?死後の世界は」
4/12/2026, 12:34:16 PM