『好きな色』
ちょっと歪んだ紺色のちょうちょ。
端が少し破けた紙で組んである灰色と白色の手裏剣。
しわしわのシッポの茶色の鶴。
「ソレ。今日、あの子が家で作ってみせてくれたの。保育園で作り方を教えてもらったんだって」
眠る娘に配慮したのだろう。
テレビ台に並んだ沢山の折り紙の作品を眺めるボクに、夕飯の支度をしながら、妻が小声で説明した。
「なんか、地味な色紙ばっかりだな」
ボクはスーツのジャケットを脱ぎながら言う。
「あの子、こんなシックな色が好みだっけ?」
「好きな色とか、かわいい色の紙は、使うのがもったいないんだって」
妻が苦笑いした。
「あの子の色紙のケースを見てごらん。ほら」
促されるままに、娘の色紙のケースの蓋を開けて、ボクは納得した。
目に飛び込んできたのは、鮮やかな赤にオレンジ色。柔らかいピンク色や淡い水色の折り紙もある。
どの折り紙もシワひとつない。きっちりとケースの中に仕舞われていた。
「あれ? 黄色が無いな」
ボクは折り紙の束をパラパラめくりながら言う。
「あの子が一番好きな色だろう?」
「それは、ホラ。ここに」
妻が食卓を指差した。
「父の日だもんね? あの子、『今まで黄色の色紙を貯めててよかった』って言ってたよ」
食卓のボクの席には、温めなおされた夕飯。
それと、黄色い色紙で作ってある、少しヨレヨレの花束があった。
6/22/2023, 4:18:17 AM