Ichii

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上手くいかなくたっていい

張り詰めた自我はある時ぷつりと切れてしまった。
満点に近くて、でも完璧には物足りない解答用紙。平均よりは上だけど、秀でているとは言い難い体力測定の結果。可も不可もなく、そこそこに培われた社会性。主張するほどの自我はなく、周囲を伺いより心象の良い方へ傾く毎日。
嫌われたくなくて、人よりも優れていたくて、誰からも見下されたくなくて。そうして歩んできた僕の人生は、傍から見ればそこそこのものだろう。金にも生活にも困らない、友人にも恵まれた、人並み以上の幸せ。けれども、いつもどうしようもない虚しさがまとわりついて仕方なかった。
頑張らなくてもいいよ。
言葉を額面通りに受け取っていた頃は、その言葉に救われる思いだった。人の在り方を、努力を、認めるような響きの言葉は許しの形をしていた。ありのままでいていいと、自分そのものを受け入れてくれるように錯覚させた。
何度目かの優しさに似たその言葉を吐かれた時に、僕はその目を見てしまった。言葉にしなくても目は雄弁に語るのだ、僕にこれっぽっちも興味が無いことを。その目には僕なんて映ってなんかいなかった。僕を映さない目は、僕よりも劣っているはずの彼奴だけを見つめていた。
悔しさとかやるせなさとか、そんな思いも悪戯に惨めな思いになるだけで見返してやろうだとか、そんな気持ちもすっかり萎んでしまった。
生まれ持った才能には勝てないのだ。世の中、どうにもならないことがある。
それに気付いて、いや、最初から気付いてはいたのだ。ただ、目を逸らしてきた事実を目を背けられないほど眼前に突きつけられてしまって。ちっぽけな見栄の為に保っていた意地は、小さな亀裂からいとも簡単に瓦解した。
上手くいかなくたっていいよ。そんな言葉を聞く度に、呪いのように声が聞こえる。
あなたに期待なんかしてないから。

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認められたい人に認められないなら、何もかも無意味に感じるのです。僕は、あなたに認められればよかったのに。

8/9/2023, 3:47:54 PM