あお

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最後に笹に短冊を飾ったのなんて、何年前の話だろうか。
願いは信じても叶わないと信じたのはいつ頃からだっただろうか。思い出したくもない。
10年前の今日、七夕の日に仲良しだった幼馴染が、「二人でお願いごとしよ!」と1枚の短冊を渡してきた。
幼馴染が持っている短冊は水色。私の短冊は桃色。
お互いの好きな色だった。
元々お互いそういうことをやるタイプでは無かったのだが、突然どうしたんだろうと思う程度で気にせず言われた通りに短冊を書いた。
私のお願い事は、「幼馴染と一緒に居られますように。」だった気がする。
短冊をふたりで書き終えた後幼馴染の短冊の内容を聞いたけれど、「私のはいーの!」って感じで背中を押されながら元気としか言いようがない声で言われた。
そして、短冊を笹に飾った。彦星と織姫に届くように、無理して高い位置に飾った。
幼馴染は、私の短冊と正反対の所へ飾った。今思えば私にバレないようにしているのだと手に取るようにわかる。
でも10年前の私はそんなこと気にしてもいなかったから、そのあともふたりで笑いながら1日を過ごした。
ずっと一緒に笑っていられると思っていた。
時が経ち、9年前の今日。
また幼馴染から「今年も短冊書こ!」と昨年同様桃色の短冊を渡してきた。
幼馴染も水色の短冊だった。
「ねえ、昨年はなんて書いてたの?」
「今年と一緒!」
「今年はお願いごと教えてよー、」
どうしても教えて欲しくて半ば諦め状態でそう言うと、口元をもごもごとさせ何かを迷っていた。
疑問に思っていた時、幼馴染は何かを思いついたようにあっと口を開けた。
「私の誕生日にこれを見て!」
何故?
そんなことを思ったが、口をつぐんだ。こくりと頷くと、幼馴染は短冊を折りたたみ私のカバンのポケットにぽいっと入れた。
「絶対だからね!」
大きく声を上げた幼なじみの表情は、今でも頭に刻み込まれている。

✳✳

ついに幼馴染の誕生日が来た。
正直な話誕生日が来る前に見てしまおうかと思ったけれど、約束してしまったからにはきちんと約束を果たした。
何故か心臓が早く鼓動する。
自分に不思議になっていたけれど、そんな自分を置いて折りたたまれた短冊を開いた。幽かな紙の音がする。
「病気が治りますように。」
そう悲しげな字で綴られていた。
衝撃で全然信じられなかったが、これは正真正銘の事実だった。この言葉を信じたくなかった。
急いで幼馴染の家に駆け出して話を詳しく聞いた。
幼馴染の最後の言葉のせいで、ほかの内容は覚えていない。
「私、あと少しでしんじゃうんだ、」
いつもの溌剌とした声はなく、声は震え、悲しさや寂しさに包まれていた。
最後の最後まで本当に信じたくなかったけれど、こんな初めて見る幼馴染を前にしては問いかけの声すら出ない。
嫌だってハッキリと思った。
なんで神様こんなことをするのって、 こんな時だけ神を信じていた。
家に帰ったらお母さんに抱きつきながら顔をぐしゃぐしゃにするくらい泣いた。
ただ私は幼馴染が生きることを願うことしか出来なかった。
こんな自分が惨めで仕方がなかった。

幼馴染との七夕は、もう来ることがなくなった。


『七夕』

7/7/2023, 10:45:38 AM