『手を取り合って』
手を伸ばした。けれど向こう側には、何も無い。
あの日僕らは、 死んだ。
みんな僕を置いて、遠い遠い天の果の国へと飛び立った。口を揃えて「お前のためだ」と言って。飛び立つのならば、僕も連れて行って欲しかった。
あの日以降、僕は毎日この夢を見続けている。
あわよくば醒めぬよう、願って。続いて欲しかった。手を取り合い、青春とは言えないかもしれないけど、少なくとも僕にとっては特別な、長い長い5日間だった。
全てはあの許されざるアクマのせいだ。
All you need in this life is ignorance and confidence, and then success is sure.
(あなたの人生で必要なものは無知と自信)
という言葉を知っているだろうか。これは
マーク・トウェインという作家の名言だ。きっとあの5日間はこの名言が最も相応しいだろう。
だって、知りたくなかった。無知でありたかった。知ってしまえば最後。アダムとイブの様に、追放されていく。林檎を教えた蛇もいた。だけど蛇はあそこでは悪魔自体じゃなかったな。まぁ、今更だが。
手を取って欲しかった。初めてあった時みたいにあの5日間、僕たちは、猛獣もいない平和な島で目覚めた。そこには手紙が置かれていた。1人1枚で、それを他人に見せては行けない。という言葉が書かれていた。今思えば、きっとそれは僕だけだったんだ。だってみんなはその日の夜、手紙を見せあっていた。
そして手首に何かが装着されていた。
その島の絶対的なルールがあった。
手を取り合って、生きていきましょう。
それだけ。
みんな、あの島にいる時少しおかしかった。
だけど深堀はしなかった。きっとそれは、怯えを知っていて、自信もない。だから死んだ。
島で5日間過ごし、最後に罪の集計をして、殺される。それを覚悟して過ごしていた。僕は。
みんなは違ったらしい。
其れは、僕以外全員共通のルール。
愛し子を守りましょう。愛し子は____です。
罪があれば5日目に殺されます。愛し子を殺されないようにしましょう。
だいたいそんなルールだったらしい。
僕は猛獣がいるとこに近付いてはならないを破った。何故か僕は守られていて、役に立ちたいと思って、近付いてしまった。
ピッ
という機械的な音が響く。音がした手首に目を向けると黒い画面は蛍光緑色の数字が映し出されていた。暗いとこではよく煌めいていた。
1、と書かれていた。きっと罪の数。
びっくりして仕方なしに戻った。きっとあれが原因で、みんなは僕を置いていったんだ。
みんなルールを守っていた。僕だけ、僕だけが破った。みんなどこか焦っていた。
最終日、みんなは、僕の罪を着た。僕を守るというルールを、僕が危険なとこに近づいたせいで、破らせてしまった。そして守るために罪を着た。
僕を逃がした。断罪人がいた。着ることを認めていた。みんな、殺された。断罪人は、僕にこう言った。
「おめでとう。君は帰れる。悲しむことはない。
なぜなら、皆手を取り合った結果なのだから。」
そして僕は帰らされた。みんなに守られて、そして僕が殺してしまった。
その罪を背負い、僕は今も生きている。
もう何も無い対岸に、手を伸ばしながら。
7/14/2024, 10:23:18 AM