「面を上げよ。」
威厳のある、低い男の声が響く。
その声は、深く……土下座をした、初老の男に向けられた。
初老の男は罪人のように手錠をしていたが、
その容姿、その所作から、高貴な身分であることは明確だった。
「私なら、どんな目に遭おうと構いません。
あの方だけは……、あの方に連なる血筋の方々だけは……、
処刑しないで下さい。
どうか、どうか、お願い致します。」
初老の男は、膝を付き、手をハの字に置き、深く頭を下げた。
威厳のある男は、初老の男の行動が全く理解出来なかった。
彼が知っている、高貴な身分の人間は全く頭を下げたりなどしなかった。
だから、彼は初老の男の懇願を退けた。
そして、彼は初老の男の言う、『あの方』と『あの方の血筋に連なる方々』
を皆処刑した。
何故なら、彼にも……初老の男のように、
彼を信じ、仕え続けてくれる者たちが居たのだから。
4/26/2024, 2:02:00 PM