こんな夢を見た。味気ない部屋にモノクロの私が立っている。渇きと焦燥に似た衝動に駆られ、部屋を飛び出す。部屋を出ると、眩しいほどの色彩に溢れた建物が乱立していた。文字は読めなかったが、看板がついているので多分全て何かのお店だろう。どこを見ても、何もかも色鮮やかで胸がときめく。あの中で買えるものを身に着けたら、私はきっと満たされる!私はそう確信し、近くにあったお店に入り真っ赤なリンゴを一つ手に取った。磨き上げられたかのようにツヤツヤで、真っ赤な宝石のようだ。美味しそうだと見惚れていると、リンゴに変化が起きた。リンゴの色が急激に褪せ、萎んでいくのだ。驚いて、他のものを手に取ると、同じく色が褪せてしまう。あんなに色鮮やかで輝いていたのに。肩を落として、店を出る。多分、他の店のものもそうなるのだろう。そう言い訳をしてみても満たされず、私の中の衝動は大きくなっていく。ふらふらと歩いていると、一際輝く場所を見つけた。そこは誰かの庭だった。鮮やかな緑の芝生で覆われ、レンガの花壇には色とりどりの季節の花が咲き乱れている。それに水をまいたばかりなのか、水滴がキラキラと日光に反射している。私は一瞬で目を奪われ、衝動的に柵を乗り越え庭に入った。近くで見ると、やはりため息が出そうなほど美しい。どうにかして、この庭を私のものにできないか。
「あ、そうだ」
確認のために屈んで花に触れると、リンゴと同様に色褪せて萎んでいく。
「この庭、美しいでしょう?」
声をかけられ、振り向く。優しそうな老婦人が私に微笑みかけている。
「…ええ、とても。あ、勝手に入ってしまってごめんなさい」
慌てて取り繕い謝罪すると、彼女は上品に笑った。
「良いのよ。それくらい、近くで見たかったのでしょう」
勝手に庭に入ってきたのに、なんて余裕のある人だろう。この庭を手に入れたいという気持ちは、すっかり萎えてしまった。先ほどまでの自分の必死さが滑稽で、私は羞恥で顔を伏せた。足音が近づいてきて、彼女は私の隣に屈んだ。
「あなた、自分と生活に不満があるのね。だから、そんな風に白と黒だけになってる」
「…そうなのかもしれません」
「やっぱりね」
彼女は立ち上がる。
「あなたの不満を解消するのは、あなた自身よ。ないものねだりしても、あなたの姿は自分の中の不満を解消しなきゃ治らないの」
「どうすれば…」
「取り敢えず、お茶を飲んで花を愛でましょう。小さなことに幸せを見出す練習をするの。あなたの不満を解消させる糸口が見つかるかもしれないわ」
彼女は名案だと言わんばかりに、「そうよ、それが良いわ」と手を叩く。
「それで見つかるんですか?あまり解決に…」
「美味しいケーキも出すわよ」
美味しいケーキが出ると言われて、嫌と言えるわけがない。行きましょう、と促され私は彼女の後をついていくことにした。
3/27/2026, 9:06:42 AM