「へえ、クリスタルの石言葉は『純粋』『無垢』『完全』か」
君が、僕があげたクリスタルの箱に付いてきた説明書きを読みながらそう呟いた。
【不純不完全クリスタル】
「『純粋』で『無垢』であることが、『完全』であるための条件なのかな」
「うーん……」
君の言葉に、どうだろうと首を捻る。そもそも、宝石にも花言葉みたいな概念があることを今初めて知った。それに……。
「それだと、純粋さを失った瞬間に完全ではなくなるってことにならない?」
「違うの? 純粋無垢って完全のパーツだと思ってた」
「えー」
あまりピンとこない。僕個人が純粋さをさして重視していないせいだろうか。
「……私は、私が純粋で――完全でいられないことに、かなり負い目を感じているよ」
「うーん……」
君の手からクリスタルの説明書を取り上げて、頭の中で説明を構築しながら少しずつ喋る。
「僕が君に買ったのは、クラッククリスタルってものでね」
説明書の該当の部分を示しながら、続ける。
「ほら、クリスタルの内部のここ、割れてるでしょ」
「うん」
「これは人工的にわざと付けられたもので、光が当たると……ほら」
鏡のようになったクラックの断面が、電灯の明かりを強く跳ね返す。
「綺麗……」
「でしょ?」
うっとり目を細める君に、僕は微笑みかける。
「だから、傷ついて完全じゃなくなっても、きっと大丈夫だよ」
励ましたつもりなのだが、君はなぜか難しい顔をしている。
「……でも、傷があったら、そこから割れやすいんじゃない?」
「うぐ……」
さすが君、いいところに気がつく。実際、この傷の部分からクリスタルが割れてしまったという話はそれなりに聞く。
どう返答したものかと言葉を詰まらせる僕に、君はくすくすと楽しそうな笑い声を浴びせてきた。子供のような純粋なものではなく、傷つきながらもここまで生きてきた大人の笑い方。
「だから、割れないように、大事にしてよね!」
7/3/2025, 8:49:54 AM