とある秋の日の事である。
収穫の秋と言うことで、額に汗しながら農作業に勤しんでいた。
「これが嫌いで村を出たんだけどなあ」
誰にも聞こえないように愚痴る。
この村には何も無い
あるのは無駄に広い畑ばかり……
俺はそれが嫌になって、数年前この村を出て冒険者になった。
大きな街に出て、順調にランクを上げ名も知られ始めた時、
だがそんな時、信じた仲間にパーティを追放された。
当時恋人だったクレアの勧めもあって、故郷に戻ることにした。
そこで冒険者の経験を活かし、村の警備をしていたのだが……
まさか、再び嫌いな農作業をする羽目になるとは……
なんとかして逃げようとしたが、『収穫の時期で人手が足りない』と断れずやってきた。
新婚だから見逃してもらえると思ったのだが、村の奴らは甘くはなかった。
人生上手くいかないものである。
「バン様ー!」
離れたところで俺を呼ぶ声がする。
手を止めて顔を上げると、視線の先には満面の笑みを浮かべている妻のクレアがいた。
「見てください、バン様!
大物ですよ」
戦利品を掲げて俺に見せつけるクレア。
大物と言うだけあって、俺が収穫したどのサツマイモよりも大きかった。
「すげえな、おい。
俺も負けてられないな」
「では勝負しましょう!」
こうした収穫は初めてなのか、クレアはずっと楽しそうだ。
気持ちはわかる。
何事も、初めては楽しいものだ。
鬱々としていた俺も、クレアに引っ張られて少しだけ楽しくなる。
なんだかんだ嫌いな農作業をしているのは、きっとクレアがいるからだろう。
もしいなければ、『村の外の様子が変だから見てくる』と、この場から逃げ出したに違いない。
クレアがいれば、大抵の事は楽しいのだ。
「そろそろやるか」
俺は止まっていた手を再び動かし、再び収穫の作業に戻る。
勝負を持ちかけられたのだ。
罰ゲームは決めていないが、負けるわけにはいかない。
俺はクレアに勝つべく、どんどんサツマイモを掘り出していく。
日が暮れるころには、畑んぽサツマイモすべてを掘り出された
「ふふふ、私の勝ちですね」
勝負の結果はクレアの勝ち。
クレアは大きなサツマイモをを持って勝ち誇る。
「罰ゲームは?」
「焼き芋を焼いてください」
「いいぜ、焼き芋マスターの俺の腕を披露してやろう」
俺は適当なサツマイモを数個より分ける。
もともと分け前をくれるという話だったのだ。
今貰っても問題あるまい。
俺は起こした火の中に、サツマイモを入れる。
これであとは待つだけ。
『待っている間、雑談でもしようか』
そう思ってクレアの方を見ると、彼女は真剣な眼差しで焚き火を見つめていた。
その眼差しは、まるで恋する乙女のよう。
俺はその顔を見て、『食欲の秋』という言葉が頭に浮かぶ。
そのことを指摘しようとして――
『楽しそうにしているところを、邪魔する理由はない、か……』
俺はクレアの隣に座り、並んで一緒に焚き火を見つめることにしたのであった。
9/22/2024, 3:47:29 PM