『初恋の日』
怪盗Xが現れた
緩やかに巻かれた長い髪の毛、美しいこの世界を見下ろす真っ黒な目、誘惑的な微笑を浮かばせる厚い唇
電飾に踊らされているこの世界で、ボクはカノジョに心を盗まれてしまった
「返して欲しい?」
「いいや。どうかキミが持ったままでいて」
すぅ、と細められるその瞳にボクは釘付け
カノジョは声を出して笑った
細い指がボクの顎に絡み、カノジョのキレイな顔はボクの顔に近づく
「それじゃあね、怪盗Xさん。アナタの心はアタシが頂いていくわ」
「ハハハ、やられたなぁ.......でも次はキミが奪われる番さ」
やれるものならやってみなさい
生温い風が草木を揺らし、身を翻したカノジョのワンピースもふわりと浮かせた
「参った参った.......ボクの元には予告状が届かなかったよ、小さな怪盗さん」
もう一度、次は強く吹いた風はカノジョの残り香を運んでくる
美しい海が下に見えるテラスでボクは
盗んだティアラを放り捨てた
5/7/2024, 1:28:24 PM