須藤 東

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『蛸』

まな板にきらきらした瞳孔の
粘りの残った磯の香りの蛸に
銀にひらめく包丁でつんざいた
蛸は驚いたが余る脚で
私の満ちた指に
思い切り絡んで
持て余した吸盤で
私の生命の末端を
吸い込もうとした
私は余った手の中指の付け根の
でっぱった骨を
蛸の眉間に叩きつけた
ジッと生命が割れた音がした
こうして蛸は私の知らない
私のどこかへ
ぬめりもなく流れ去っていった
あすの予報は
雨の心配は無いと
そう聞いた

9/26/2025, 7:01:28 AM