そこは世界からも見捨てられたような、うらびれた土地だった。固く乾いた地面はひび割れて、花どころか草木も生えていない。
そんな土地にある日ひとりの旅人がやって来た。旅人はみすぼらしいテントを一つ建てると、そこに住み始めた。
長い年月が過ぎ去った。それまで色んなことがあった。最初に住んだ旅人が呼び水になったのか、次第にその場へ人が集まり始めた。人が集まることによって渇いた大地は耕され、畑ができて、井戸ができて、家ができた。
そうすると土地はどんどん活気に溢れ、そこはいつの間にか賑やかな街となった。
そして、いま。
この場所には無数の墓標が建っていた。
再び長い長い年月が過ぎ去り、人は争いを起こして互いの命を奪い合った。
その土地はまた世界から忘れ去られていた。
かつての賑わいはどこにもなく、墓標の他には建物の残骸がそこかしこに転がっているだけ。
そこにまた何も知らぬひとりの旅人がやって来た。旅人はかつて街であったこの場所を奥へ奥へと進んで行き、あの無数の墓標たちの前に立った。
この場所で眠るかつての先人たちに、旅人は深く頭を垂れる。
旅人は訳あってひとりぼっちだった。帰る家を持たないまま各地を転々としていたが、いいかげん羽を休める場所が欲しかったのだ。
旅人はみすぼらしいテントをひとつ建てた。
この場所でまず生きてみようと、旅人は心に決めた。
【この場所で】
2/12/2023, 8:15:54 AM