霜月ミヲ

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『飛べない翼』


わたくしの住む国に飛べない翼を持つ一羽の鳥がおりました。

黒い線が胸のところに入るのが特徴でありました。

その鳥はひとつの群れの中で過ごしていたのですが、いつも独り、仲間とは別のところで行動していました。

独り寂しく、飛べない翼を眺めては、しょんぼりと悲しみにふけることもございました。


と言いますのも、鳥は自らその状況を望んでいたわけではございません。
鳥は『飛べない翼』を持っていたために仲間から見放され、罵られていたのでした。

その境遇は群れの中でも最下等。最早幽霊に等しいような扱いを受けていた訳です。

そしていつも、ピィピィ、と小鳥のような鳴き声をあげて鳴きますゆえ、群れの仲間たちからは「ピイ」と呼ばれていました。

段々と虐めのようなものになっていくにも関わらず、鳥はいつものように使い物にならない薄汚い翼を眺めては、独り寂しくまた「ピィ」と鳴くのでした。


わたくしも鳥を預かり、翼を治療してみようと懸命になったこともございましたが、どうしても、鳥が飛ぶことはありませんでした。


しかし、ある時を境に、わたくしがその鳥を見ることは無くなりました。鳥の行動していた湿原の管理者に聞いてみましたが、所在は分からずじまいでした。

隣の中田さん(わたくしと同じ、鳥が好きな方です)に聞いてみると、
それらしい鳥が飛んでいくのは見た、夕方の汽車が出た時間だと思う、と仰っておりました。

わたくしにはあの鳥がその後何処に飛んでいったのか、はたまたまだあの湿原にいるのか、そもそも鳥は元々飛べていなかったのか、わたくしには分からないままです。


こないだもう一度湿原へ立ち寄って見たのですが、あの鳥の姿はどこにもありませんでした。
ただ夕方の汽車が駅から発車していき、夕陽が地平線に落ちていき、数羽のからすがぱたぱたと何処かへ飛んでいくだけの風景が、途切れることなく続いていただけでした。

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自信作?5作目。飛べない?ある鳥のお話。ですます調にしてみました。

11/11/2022, 2:27:34 PM