「相合傘」
急に暗くなったと思ったら雨が降り出した。
慌てて家中の窓を閉めると、むわっとした空気の匂いが顔に当たる。夏が近づいてきた匂いだ。
家族は傘を持っているだろうか?父母は車だから大丈夫だけど、弟は下校の途中かもしれない。
「ただいまー」
そんなことを考えているうちに弟の声がした。玄関を見ると、傘を持った弟が立っていた。
「傘持ってたんだ。良かったね…って濡れてるじゃん!」
頭から肩、足下までしっとりと濡れた彼は憮然とした表情で靴を脱いでいる。
「傘持つの下手なの?」
「うるさい。」
私を一言で黙らせると自室へ行ってしまった。
Tシャツが透けている左肩を見ながら、昔は優しくて可愛かったのにと一人思う。
ん…左肩…そういえば左側だけ濡れていたな?
「ああ…誰かを入れてあげたのか。」
小さな声で呟く。
相手が雨に当たらないように、でも体が当たらないように、左肩を犠牲にしたのだろう。
いつまでも優しくて可愛い弟。
通り雨だったようで、雨の音はいつの間にか聞こえなくなっていた。
6/19/2022, 11:22:59 PM