『真夜中』
これは、二人だけの秘密。
「こんばんは」
「こんばんは」
私しかいない二階の屋根裏。使われていない物置の奥に一枚の鏡がある。
そこで彼女と出会った。
たわいのない話をしたり、その日にあったことや幼い頃のの話をして過ごす。楽しい時間だった。
「アリス? どこにいるの!?」
真夜中に鏡の前に立ってはいけない。
彼女と交わした唯一の約束だ。だからいつも話している間以外は布を掛けていた。
でも今日だけは許してと布をめくり上げる。
明日には王子が私を探し当てる。ガラスの靴を片手にもう隣の家まで来たというのだ。一時、魔法の力で美しくなった私と踊ったに過ぎないのに。
布の下から鏡が現れる。
驚くアリスが映ったかと思えば、突然鏡から腕が現れて中に引きずりこまれた。
「アリス?」
「馬鹿な子。真夜中は来てはいけないと言ったでしょう」
「ここはどこ?」
私を掴んだ腕はアリスのものではなかった。
彼女と対峙する大きなトランプ兵。見渡せばそこは血にまみれた戦場だった。
スカートをつまみ、血のついた頬に笑みを浮かべてアリスが告げる。
「ようこそシンデレラ、不思議の国へ。ここは何事もお話通りにはいかない裏の世界。来たからには戻るお手伝いをしてちょうだい?」
後ろを振り返っても鏡はなく、いつの間にか手にはガラスの剣が握らされていた。
5/17/2024, 11:36:58 PM