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非常階段を駆け上がる黒い色の人影を見て私は一瞬身を隠し体を180度向きを変えて歩き出す。

違うかもしれない。きっと見間違いだ。

何度も自分に言い聞かせる。でも、どうしても見間違いと思えない。

そんな考えを打ち消すかの様に初めて出会った日のことを思い出した。

そろそろ結婚を考える歳になり、出会いのない私は初めてマッチングアプリを試してみた。
何人かと実際に会ってみた。しかし、第1印象で合わないなと思ってしまう。

旦那と初めて会うとなった日も正直また合わないだろう と期待をしないで行った。
少し早めに待ち合わせ場所である駅の南出口付近で携帯を見て少し時間を潰す。興味のある記事に夢中になっていると

‥‥ごめんなさい。少し遅くなってしまって。

と不意に聞こえて我に返り声のする方へ目を向けると
少し照れくさそうで、普段はあまり笑わない人なのかなと思わせる程にぎこちない笑顔で私を見ている。

いえ、少し前に着いたばかりです。

そうでしたか。良かった。1本乗り遅れてしまいまして‥すいません。あそこの喫茶店でどうでしょうか?

と駅前の2階の喫茶店を指さした。

はい。(慣れてなさそうだけど悪くない感じかな)

他愛もない話をして、初めて次の約束をして家に帰える。
そういえば旦那の笑った時の顔は初恋のあの人の笑顔によく似ている。
何だか影があって、ミステリアスな感じの人が私は好きなんだなと「初恋の日」を思い出した。

帰ろう。あの笑顔を見に。

5/7/2024, 1:04:32 PM