「カズキくん、これ受け取ってくれる?」
そう言って袋に入った小さなカップケーキを差し出したのは、いつもクラスメイトに囲まれている人気者、梨花だった。
「みんなには内緒だよ。先生に没収されちゃうから。」
口元に人差し指を当てて、梨花はまつ毛の長い目をぱちぱちさせる。カズキは信じられない気持ちながら、たどたどしくお礼を言って受け取った。
もちろん、義理チョコ以上の意味はないと分かっている。それでも、自分とは無縁の可愛い女の子だと思っていた彼女が、わざわざ用意してくれたというだけで感に堪えなかった。
バレンタインの翌日、梨花は救急車で病院に搬送された。なんと彼女の水筒に、虫よけ剤が混入していたというのだ。
突然のことに教師やクラスメイトたちが混乱する中、カズキだけは驚かなかった。
カズキは知ってしまったのだ。クラスの女子たちは、大人しくて抵抗もできないような男子に、バレンタインを利用したとあるイタズラを仕掛けたのだと。女子たちのリーダー格である梨花は、陰で心底可笑しそうにこう言っていた。
「ねえねえ、あのキモい奴にさ、塩がめちゃくちゃ入ったチョコあげたらどうなると思う? あはは!」
2/15/2024, 3:08:38 AM