木枯らし

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時計の針はいつも一定に、美しく残酷でありました。

「時計の針」

暗い部屋で一人、私は。
なぜそうなったのかも理解できず、床に伏していたのです。
常に酸素が足りなくて、胸の辺りがズキズキ痛む。
励ましてくれる人はおらず、唯一愛した恋人は戦へ出向いておりました。

いつまでも、一人ぼっち。それが私でありました。

それから、哀しくも何年待とうと、彼は帰ってきませんでした。
私の病も深刻化して、とうとう声すら出せなくなった。
日の光の無い暗い部屋では、時計の針だけが鳴っています。

【誰か助けてくれますか。】

不安で苦しくて、叫び出しそうなほど辛いのです。

頭が朦朧として何も、なにもわからないのです。

何もおもいだせません。
きりのように消えるのです。

彼をわすれてしまうのが私はとてもこわいのです。

あのやさしく低い声を。へいたんで頼りのない顔を。おおきくて男らしい手を。
わすれたくはないのです。

けれど。
けれども、とけいの秒針はいっていに時を刻んでいます。
わたしの命をかくじつに、とけいがさらって行くのです。

…むねがとても痛いのです。
病のいたみではない、別のなにかが、わたしの心をしめつけます。

それは、そう。だれのことでしょう…? 

一つ、私が贈った時計を持って、戦へ出向いた誰かも同じ気持ちなのでしょうか。

【おねがい。たすけてくださいな。】

命がきえてしまいます。
きおくのなかにいる、だれかの命が。
なにもわからないのです。

けれどわたしはそれが、どうしようもなく怖いのです。



これは、
誰かの人生である。
日記の一節である。
秒針の一つの波である。

文法も辿々しく、彼女の病気も、見ていた景色も何もわからない。

けれど、いつまでも「彼」だけを想うこの文章を見るたびに。
私の胸は熱くなり、頭には小さな時計の針がチクタクと鳴り響いているのです。

2/7/2026, 5:33:02 AM