Theme:涙の理由
いつからだろう。泣き虫だった貴方が涙を見せなくなった。
父である先王が崩御されたときも、剣術を習った騎士団長が戦死したときも、
貴方は僅かに俯いた後、感情の籠らない声音で淡々と次の指示を出すようになった。
貴方が幼い頃からずっと付き人兼護衛をしている私は、思いきって聞いてみた。
「泣かないんですね」と。
貴方はこちらを見ずに静かに答えた。
「我が国は戦争の只中だ。誰かのために涙するなら、戦でこの世を去ったすべての者のために涙しなければならない」と。
貴方は王として立派に育ってくれた。しかし、私は胸が締め付けられるように感じた。
正当な理由がないと、涙を流すことも出来なくなった貴方。
「私は、ずっとお側におります。貴方を置いては逝きません」
そんな言葉が、思わず口をついて出た。
「…期待している」
そう呟いた貴方の目元が僅かに濡れていたのは、気のせいだろうか。
10/10/2023, 10:21:28 AM