【夢が醒める前に】
飛び込んできたメール。普段のやり取りがチャットアプリだから慌てた。
「おめでとうございます、再生数ランキング1位になりました!」
動画配信アプリに上げた、オリジナルの曲。どうせ誰も見やしないと思ったのに、気が付いたら二週間で百万再生。一体何だってんだと思えば、有名歌い手に踊り手、自主作成のPVが溢れていた。
こんなの嘘だ。夢だろう。
またメールの着信音。普段ならないから飛び上がる。
「はじめまして、私、株式会社○○レコードの○○と申します。この度は再生数ランキング1位おめでとうございます。他にアップされている楽曲も拝見いたしました。非常にトレンドをよく捉えており、多くの方の心に届く曲、歌詞でした。つきましては、より多くの方にお届けするお手伝いをさせていただけないでしょうか?」
大手レコード会社からのオファー。嘘だろう? こんなの絶対夢だ。どうせ夢なら返信しよう。と、思った途端に更にメール。
「はじめまして、私、株式会社○○のメディア部の……」
「はじめまして、私、○○株式会社スタジオ統括の……」
嘘だろう、嘘だろう? だって聞いたことのある会社ばっかりだ。
結局一番好きなアーティストが所属してる会社のメールに返信、そのまま事務所に入った。今だって実感がない。大好きなバンドのメンバーと握手した手が震えてた。
今までの音源を、プロの編曲者に手入れしてもらって深みを出して、ボカロのコーラスを生に変えて、新たに収録した音源として配信と販売。金が、金がかかってる。これが売れなきゃ終わるだけだ。一週間後の売上ランキングを見るまで、毎日毎日首でもくくったほうがいいんじゃないかと揺れる日々。
結果、初週一位。本当にもう、嘘だろう? なんだってこんな夢を見せるんだ。
記念ライブをライブハウスで。それだってキャパ千人オーバー。そこに立って、逆光の中に浮かぶ人達の顔、顔、顔。
ああ、夢だ。これは夢だ。これにこんなとこで歌えるような人気も技術もないんだ。だけどそう、どうせ夢なら、夢が醒める前に、もっと必死こいてもいいと思ったんだ。
3/20/2023, 10:59:07 AM