Yushiki

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 私だけのものが欲しかった。
 私だけの特別で、私だけを必要とするそんな都合のいいものが。

「そんなもの、この世界のどこにもないのにね・・・・・・」

 ベッドに横たわったまま部屋の天井を眺めていた私は、ぽつりと呟く。

「わたしでは・・・・・・、貴女様の特別にはなれませんでしたか?」

 傍らからそんな寂しそうな声が聞こえるも、私はそちらのほうを振り向いてやらない。

「ええ、そうよ。お前ではダメだったわ。だってお前は優し過ぎるもの──」

 誰にでも分け隔てなく優しいから、お前を私だけのものになんてできないわ、という言葉は辛うじて飲み込んだ。代わりに片手を掲げるように差し出すと、震える温もりがその手を包み込む。

「でも・・・・・・、貴女様はわたしだけの、特別でした」

 誰も代わりになんてなれません。そう言った傍らの彼を私はとうとう振り返り、「そう」とだけ告げて控えめに微笑んでから、ゆっくりと目を閉じた。

 私だけのものは手に入らなかったけれど、私自身が誰かの特別になれたのなら、この人生も案外悪くなかったわね、と、最期にそんなことを思いながら。



【私だけ】

7/19/2023, 4:26:32 AM