「大丈夫?」
放課後、誰も居なくなった黄昏時の教室で今にも居なくなってしまそうな、そんな表情の彼女に声をかける。
夕焼けで赤く染まった教室にいる彼女の目が赤くなっているのはきっと、夕焼けのせいではないんだろう。
何でそんな顔をしているのかも分からないし、何でそんなになるまで親友である私に何も言わなかったのかも分からない。
少し怒りを感じていると、彼女は消えてしまいそうな弱々しい笑顔で「大丈夫。」と彼女の綺麗な声で返事した。
でもその声は前聞いた時よりもずっと、小さかった気がする。
大丈夫だよって言う割には全然大丈夫では無さそうで明日学校で会えるのかも分からなくて、彼女の白い肌が透けて見えて、不安だった。
サラサラのロングヘアーの、黒曜石みたいな瞳の、肌の白い、綺麗な子。
今はそれが幽霊みたいに見えて、心の底を冷たい不快感が襲う。
本能的にこの子は放っておけば死んでしまうって事を悟り、つっかえる喉を必死に動かして、言葉を紡ぐ。
「…あのね、ホントに大丈夫な人は「大丈夫?」って聞かれても「大丈夫」なんて答えないんだよ。大丈夫な人はね、「何が?」って答えるんだ。だって、何が「大丈夫?」なのかが分からないから」
「それで、本当に大丈夫じゃない人は「大丈夫」って答えるんだ。だって、自分が大丈夫じゃないって事を分かってるから。」
彼女の顔は彼女の綺麗な黒髪に妨げられてよく見えない。
でも何となく、どんな表情をしているかわかる気がした。
「…ねぇ、もう一回聞くよ?」
「大丈夫?」
「…大丈夫だよ」
「……分かった。ハンカチ貸してあげるから、まずはいっぱい泣きな」
不器用な彼女が出したSOSを理解しないほど、私は彼女の友達を長くやってない。
声を押し殺して、唸るように泣きじゃくる彼女を黄昏時の中、夕焼けに照らされたカーテンに見守られながらずっと、抱きしめていた。
10/4/2024, 3:24:56 PM