絨毯のように敷き詰められた紅葉の上を歩く。平日の真っ昼間なこととそれなりに有名な観光スポットであるにも関わらず、私以外、人はいなかった。平見頃はとうに過ぎ去ってしまった紅葉の木はしがみつくように残った三、四枚を残し、あとは裸ん坊だ。
手が冷たい。文字通り、氷水の中に突っ込んだみたいに冷えた指先はささくれと爪の間から血が滲む。
ほぅ、と手のひらに向かって息を吐く。白い煙が熱っぽく、悴んだ指先の冷えがほんの少しだけマシになった。
「手袋ぐらいしたらどうだ?」
「邪魔だもん」
狐面をしているせいで顔は分からないけれど、彼が呆れているような空気だけは分かった。私が出会った日から見た目が何一つ変わらず、二十代後半のままのお兄さんは、私がこの辺りに来ると決まって顔を出してくれた。
しかたないな、と呟いて彼は私の右手を握った。
「これなら、マシだろ」
「ありがとう」
「ん」
お兄さんと一緒に来た道へとUターンする。
「祠、ちゃんとした人に直してもらう?」
彼の住み処である祠。昔、子供が悪戯で壊した祠をまだ、幼かった私は捨て置け、と言った彼の言葉を無視して、結局、お兄さんと一緒に直した。祠はあまりにも不恰好で、廃墟と呼んでも差し支えないほどにボロボロだ。
「いい。······あれがいい」
「なら、良いけど」
話をしているとあっという間に出口へと辿り着く。
「また、今度くるね」
はは、と笑う彼は明確に線を引く。
「もう、二度と来んな」
11/25/2025, 2:21:33 PM