藁と自戒

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女心は秋の空という言葉かある。葉が恥じらう季節の空模様は賽を振るよるに変容し易く、淑女の意向が如くである。
未だに清涼の季節では無いが、ふと色眼鏡をかけて空を仰ぐ。空がある、緋色に染った。また別の色のグラスを懐から取り出してかけると、藍色へ変わる。衣嚢から出し、黄金色へと変える。私の心模様に合わせて世界を彩る。試しに、全部を纏めてかけてみると明度だけが下がる。気分が悪くなり、もっていたものをなべて小僧にくれてやると、其れはキャッキャと笑って、礼も無く消えていった。
ぽつりぽつりとお天道様の機嫌が悪くなる。雨粒は目元を濡らし、頬を伝って、首筋へと消えていった。小走りで凌ぐ場所を探す。丁度いい茶屋があったので、小娘に注文を伝え、溺れる街を眺める。恵は人々の歩みを止める。幸か不幸か、泥濘んだ足元は歩み始めの気力を削ぎ、その場に留めようとする。そこに留まる者もいれば留まらない者もいる。全ては時の運次第だろう。視線の先の蛙がどこかへ飛び去ってしまう頃、娘が茶と菓子を運んでくる。煎茶は程よく深みがかっており、未開の大海を思わせる。徐に茶を口元に運び、茶碗を傾ける。液体は茶碗を伝い、口内に流れ込む。味わい深い潤いが喉を満たす。息を漏らしながら茶碗を戻し、四角い洋菓子に手を伸ばす。己の手によって小さく分けられた茶菓子は、口内で迷子になっている水分を腹中まで導き、さっぱりとした甘さが心地よく鼻を抜けてゆく。
空はいつの間にか晴れ渡っていた。食べかけの茶と菓子を残して、茶屋を後にし、漸く帰路に着いた。

#あいまいな空

6/14/2023, 4:17:56 PM