トゥルーブルー—誠実な人。
貴方と聴いた曲。大好きだった。
徹夜明けの皺々の顔で、明美は朝日を拝んだ。
社会人3年目。学生時代から付き合っていた彼氏から別れのメッセージが来たのは10日ほど前だ。
返す暇もない程の多忙な一週間が過ぎ、そのうちアプリを立ち上げることすら億劫になっていた。
追撃が来たのは数時間前。『さよなら』と淡白な4文字だけが送られていたのに気がついたのは、つい先程締切のデータをサーバーに格納した後だった。
女々しいやつめ。あたしより”悲劇のヒロイン”してやがる。明美はその4文字に顔を顰めた。
院に進んだ彼にはこの苦しみは分かるまい。と思う気持ちと、ここまで頑張っても受注しなければインセンティブすら入らないのかという徒労感と。
好きな業種に就けた喜びと、ここを逃せば同業に再就職は厳しいだろうという焦り。第二新卒という括りにも期限があった。
友達は好き勝手「辞めなよ」と心配だけして、親は「折角の正社員なのに」と無責任なことばかり言った。
明美は理想と現実の狭間で雁字搦めになっていた。疲れ果てていた。
二徹の後の土曜。朝6時の帰り道は、この世に明美以外は存在しないかのように静まり返っていた。
ビルとビルの合間から差し込む朝日と、イヤホンから流れる美しい旋律。トゥルーブルー。明美が大好きな曲だった。
「……辞めよ」
ぼんやりと、だが確信を持って呟く。リセットしよう。なにもかも。疲れてしまった。
あんなくそくらえな仕様書も、あんな自己愛まみれの男も、全部無かったことにしよう。
明美は晴々としていた。迷いは無かった。理由なんて要らなかった。
この空と同じ。どこまでも果てなく晴れ渡っていた。
≪どこまでも続く青い空≫
10/24/2024, 12:29:36 AM