冷端葵

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終わりなき旅

 「終わりなき旅を続けよう」と盃を交わしたのは何世紀前のことだったか。今や皆死んだ魚のような目をして、呪詛のような歌を歌っている。旅の途中で不老不死の魔法に触れてしまったらしい我々は、もう何千年もこうして海の上に漂っていた。ゴールのない終わりなき旅。どんなに少なく見積もっても三百年は食べ物を口にしていない。飲み物も長らく飲んでいない。それでも誰ひとり死なない。死にはしないが、声は枯れ、気力はすり減る。今の我々は互いのことをどこまで認知できているだろうか。誰も彼も心が死んで動く屍のようである。
 ふと、一人が遠くを指差す。それに続いて歌も止まる。彼が指差す先には虹色に輝く空があった。千年前にはオーロラと呼ばれていたものだ。
 あそこに行きたいのか、と口の形だけで尋ねると、彼はうんと首を縦に振る。船では空に辿り着けやしないと分かっているけれど、我々は黙ってそちらに舵を切る。せめて虹色の空を真下から見られるところまで行こう。
 あぁ、これだから旅は終わらないのだ。心は既に死んでいるはずなのに、何万回も観た景色にときめきを覚えて、目に見えない何かのために進んでしまう。どうせあそこに辿り着いたってここまで過ごした何千年と何も変わりゃしないのに。
 我々はまた呪詛を歌い始めた。この呪詛は我々が旅をする同志であった証、今船が動いているのが悲しいかな、その証左なのである。

5/31/2024, 12:03:27 AM