田舎に住むおばあちゃん家に行ったときの話だ。
その日は当時の最高気温をあっという間に超えてしまう様子で、太陽が私のことを燃やそうとしているに違いないと思ったことをよく覚えている。
おばあちゃんからおつかいを頼まれて、絶対に断ろうと決意していたのに
―余ったら駄菓子屋があるからそこでアイスでも買いなさい
この一言で気付いたら30分ほども歩かなくては行けないお店に向かっていたのだから私の決意も安いものである。
そうしてお使いを済ませ、余ったお金を大事に握りしめ、(きっとおばあちゃんが多めに持たせてくれたに違いない)駄菓子屋の前にあるベンチに座ってアイスを食べていた時だった。
「ねぇ、美味しそうなもの食べてるのね。私にも一口ちょうだいな」
そう言って、まるでお姫様と見まごうような真っ白いワンピースを着た女の子がまん丸の目をきらきらと光らせてこちらを覗き込んできた。
初めはなんて図々しいやつだと思っていたのに、その女の子があんまりにも女神様のようにきれいだったから、思わず呆けてしまい手に不快感を覚えたときには地面に小さな染みが出来てしまっていた。
「急に話しかけちゃったから、ごめんなさい」
そう口にすると、隣に座り気を取り直したように話しかけてくる。
「ねぇ、あなたこの辺の子?あまりみたことないわね」
その様子になんだか気が削がれた私は、しばらくその子と話を続けていた。
女の子は、私の知らないことをいっぱい知っているのに、妙に世間に疎くて―きっとこの子はお金持ちのお嬢様で、お家に居るのが退屈で家出してきたに違いない。
そう思いとてもワクワクしたのを覚えている。
しばらくして、はっとした顔で飛び上がるように立ち上がり日向に飛び出すとこちらを振り返り「私もう行かなきゃ」と言って立ち去ろうとする。
陽炎の中立ちすくむその子がなんだか儚くみえて、溶けてしまうんじゃないかと心配になった私はおばあちゃんに持たされていた麦わら帽子をその子に手渡した。
「…いいの?」
「うん。私の家もうすぐだから」
そう言うとその子はとても嬉しそうに笑いながら手を振って去っていった。
家に帰り、突然現れた非日常に出会した興奮をそのまま祖母に伝えると、最初は微笑みながら聴いてくれていた祖母の顔が段々訝しげな表情をしていくのに気付く。
どうしたのか不安になり問いかけると、そんな子はこの辺でみたことないと困った顔で私に語りかける。
最近引越してきて知らないだけではないか、とか散々聞いたがその全てに首を振るばかり。
なんだか怖くなった私は、その後そのことを忘れてしまおうと思っている内に、いつしか思い出さなくなって言った。
そう、思い出さなくなっていた。今日私は、久しぶりにもう亡くなってしまったおばあちゃんの家に訪れている。昨今めっきり人口が減ってしまった村では、次の買い手が見つからず取り壊すことになったのだ。
整理を手伝うために来たのはいいが、思ってたより早く終わってしまったことで暇になった私は久々に周辺を散歩していた。そこで以前あった駄菓子屋の前を通ったときに当時の思い出がふと甦る。
―――あのとき出会った少女はいったい誰だったのかしらん、と
どこかもやもやとした気持ちのまま家に帰ると、卓の上に見てそのままにしたのであろう一冊のアルバムがそこにはあった。片付けなければ、そう思って手にとろうとしゃがみ込む。するとどこからかちりん、と清涼感のある音とともにアルバムがパラパラと捲れだす。
そうして止まったページをふとみつめると、
あの日、麦わら帽子を被って真っ白いワンピースを着た少女がこちらをみて静かに微笑んでいる一枚の写真がそこにはあった。
テーマ:誰かしら
3/2/2025, 2:25:28 PM