「今日はカラスが静かだね」
先輩は耳が聴こえない。
だから、声ではなくLINE上の文字で会話をするしかない。
オレは馬鹿だから手話を覚えられなかった。漢字を覚えるのすら苦手だった。
今日はカラスが静かだね。その文字を心の中でもう一度唱えながら、オレは先輩に聞いた。
「何か機嫌を損ねることでも?」
「いいえ」
「カラスは賢いから良いね、犬と同じで」
「また当たり障りのないことを」
「んふふ」
「違うよ」
「賢い人が静かになる瞬間が一番怖い」
静かになる瞬間、というものを、先輩はどうやって、どこで、どんなふうに関知しているんだろうか。
無音の生活の中「静か」なんて言葉を使うのは、可笑しいと思った。
先輩が見ている景色や色を知りたい。
先輩が聞きたい声や音をあげたい。
先輩が感じたい世界や自分を守りたい。
オレは静寂の中心で先輩に言った。
「聴こえないから、どれだけ好きを言っても嫌いを言っても、『わからない』のが、ひどく辛いです」
2025.10.7.「静寂の中心で」
カラスバニキと会えるまであと約1週間ってことに気づいて今これ(てーれーてーててー※無限城落下BGM)
10/7/2025, 4:24:44 PM