冷瑞葵

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たとえ間違いだったとしても

 今からおよそ千年後の世界。
 人生のあらゆる情報はデータバンクに記録される。人生における無数の選択に対して、その後の結果をもとにAIが点数をつけ、人生そのものを評価される。
 人生においてこの情報が最重視されるようになった。データバンクから合法的に情報が引き出され、進学先は点数順に希望が通る。採用活動では点数をもとに採用される。裁判は点数が判決に大きく影響する。税金や社会保障に関しても点数が高い者が有利になった。
 いいことをすれば返ってくると喜ぶ者がいる一方で、頭を悩ませる人も多かった。これまでの人生で何か大きな間違いを犯してやいないかと気を揉んで寝られなくなる人もいた。そんな中、ここに漬け込んでサービスを提供する業者も現れる。業者の誘い文句はこうだった。
「たとえ間違いだったとしても、大丈夫ですよ」
 そう言って密かに、そして得意げに囁いた。
「ミソとなるのは、『その後の結果をもとに点数がつけられる』ということです。ならば、その後の結果を正解とすればいいのです」
 業者は確実に客を取り、目を見張るほどの売上を上げた。中には過激な業者もいて、顧客の要望に答えて世界を曲げていった。
「他人を傷つけてしまったなら、その人を悪者にすればいい。ルールを破ってしまったなら、ルールを過ちにすればいい。大丈夫。たとえ間違いだったとしても、それは正解になります」
 政府は過激な業者の取り締まりを行った。それが困難であると悟ると、政府は事の大小にかかわらずすべての業者の存在を違法とし、業者を利用した人の点数を大幅に下げると発表した。
 それでも業者は笑うのだった。
「たとえ私たちを利用するのが間違いだったとしても、大丈夫。正解にすればいいのです」
 実際当分の間は業者を利用することはデメリットにならなかった。業者によって「正しい人」にされた顧客を、AIは贔屓した。政府に歯向かってでも正しいことをしたと、むしろ高い点数がつけられてしまう例もあった。
 こうして人生の点数化は困難を極め、結局開始から50年足らずで廃止となり、ようやくこの戦いに終止符が打たれたのだった。

4/23/2024, 10:01:01 AM