「ん……」
カーテンの隙間から入り込む陽の光で目が覚める。
部屋の外からいい匂いがする。彼が朝食を作ってくれてるみたい。
まだ眠い目を擦ってのそのそとベッドから出てリビングへ向かう。
「あ、おはよう。ご飯ちょうどできたよ。」
「美味しそう…! いつもありがとう、蓮(れん)くん。」
ダイニングテーブルを挟んで二人で座り、できたての朝食を頂く。今日はトーストとスクランブルエッグに、サラダとヨーグルト。好きだからといつも3食しっかり作ってくれて本当にありがたい。
「今日もお仕事遅くなりそう?」
「うん……さみしい思いさせてごめんね伊織(いおり)。いい子でお留守番してて?」
「大丈夫、お仕事頑張ってね。」
片付けは私の仕事。食器を洗っていれば、彼の出かける時間になる。行ってらっしゃいのキスをして、仕事に出かける彼を見送る。
部屋の掃除をしたり、洗濯をしたり、あとはテレビを見ながらソファでまったり。
『──当時中学2年生だった橘伊織(たちばないおり)さんが行方不明になり3年が経ちました。警察は今も──』
「3年か……早いなぁ。」
テレビには中学入学時に撮影された顔写真が映し出されている。身長や制服、当時の持ち物に履いていた靴まで事細かに説明される。
もう当時のものなんて全部捨てちゃったから、そんなことしたって意味ないのに。
画面が切り替わり、涙をのみながらインタビューに答える母親の姿が映し出された。
あの涙を本物と信じて可愛そうだなんて言う人がどれだけいるんだろう。あの人達は私のことなんて愛してなかったくせに。
今の私は過去のどの時間よりも幸せだ。
蓮くんに誘拐されてからは3食温かいご飯が食べられて、ふかふかのベッドでゆっくり眠れる。
乱暴はしないし、私が嫌だということは絶対にしない。
家の外に出ることは許されていないけれど、不自由は感じない。もし外に出て見つかったら、蓮くんは逮捕されて私はあの地獄のような家に引きずり戻されてしまう。
それに、出られないと言っても週に一度は夜に蓮くんと一緒に近所の公園までお散歩に行ける。それで十分だ。
鳥かごの中で飼っていた鳥を外に放っても自由になんかなれず、死んでしまうだけ。だから、
「……お願いだから、もう探さないでよ。」
私はこの鳥かごの中で幸せに生きているから。
#4『鳥かご』
7/25/2024, 11:54:33 AM