lily

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「僕、小学生くらいのときに大切な人が居たんだ」
『へぇ〜…喋るの苦手な君が?』
「ふふっひどいね、でもその通りだ。…僕が言おうとしていることをひとつひとつちゃんと聞こうとしてくれる人だった」
『優しい人なんだね』
「僕には勿体ないくらい素敵な人だったよ。とっても真っ直ぐに言葉を伝えることができる人だったなぁ…
真っ直ぐすぎて、すこーしだけ口悪かったけどね」
『あははっ、随分とすごい人だ!』
「でしょ?」
『…その人の名前は?』
「…わかんないんだ。なんでだろ?
その人の性格も好きなものも嫌いなものもちゃんと覚えてるのに名前だけ思い出せない」
『えぇ?』
「でも、なんだか綺麗な名前だったような…」
『綺麗な名前?』
「うん、なんだっけな…
思い出せないや」
『君、普段記憶力いいのに名前だけ思い出せないこととかあるんだね』
「僕もびっくり」
『そっか』

「あ、電話だ。誰だろ…あぁ、先生だ。
ごめんね、ちょっと話してくる」
『いいさ、全然。
…いくらでも待つよ』
「ふふっ、ありがと」


君のためならいくらでも待つよ。
だから、ゆっくりでいいから、

 名前、思い出してよ

7/20/2023, 1:22:20 PM