香星ヨル

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 僕は、がむしゃらに走っていた。
自分が馬になったかのように思えていた。風が僕の耳元を通り過ぎていく。
 静まり返った街では、ただ、僕の生きている音だけがした。
 霜柱のできた砂利道を蹴り上げる音、フェルト生地のコートが擦れる音、荒い息遣いの音、
 僕の、心臓の音。
さっきまで僕を動かしていた心に、突然恐れが芽生える。
息が荒くなり、足ももたつきはじめた。
 僕を守る何かが食い尽くされていくように、ただ、ただ、恐ろしさが増していく。
「はぁっ、はぁ、はぁ…。」
 足が止まる。もう、走れなかった。
僕が止まると同時に、すべての音が消えた。
世界に静寂が訪れる。
 僕は、本当に1人になった。
それを知ると、鼻の奥がツンとなって、急に目の前がぼやけはじめた。
 しまいには喉から出る声が抑えられなくなってしまった。
 何か、何かを求めている。
目を擦る手は、氷のように冷たかった。
 しかし手よりも、僕の心の方がずっと冷えてしまっていることに気づいた。
 僕は求めた。必死に求めた。
1人の世界で、ひたすらに。僕を温めてくれる何か、守ってくれる何か、満たしてくる何かを、
――僕は、求めていた。


―愛情―

11/27/2023, 12:06:40 PM