ラブソング
表の街を行き交う人々は、
平和に浸りきって、
痛みを忘れてしまったのか。
人と人が触れ合い、求め合う。
そんな、幻を信じている。
しかし、
虚構で彩られた、
弱者の犠牲の上に積み上がった、
華やかな街の裏には、
声無き者の悲鳴が、谺する。
己の正義を振り翳し、
他人を傷付け、咎を重ねる、
この世を占める大勢から、
無き者とされた俺には、
華やかな生き様は、
似合いはしない。
愛も夢も信じられない俺には、
街のラブソングは甘過ぎて、
何も響きはしない。
人の心は、醜く残酷で、
人を愛する事は、
脆い夢に心を賭すに等しい。
…そう思って生きてきた。
だが。
こんな俺に、
手を伸ばしてくれた奴がいた。
太陽のように真っ直ぐな瞳で、
汚泥の中の俺を射抜いたんだ。
こんな俺には、
その手は、掴めない。
なのに、
その手を、拒めない。
世間から忘れられた、
薄汚れた街に、
古いラブソングが流れる。
俺は、初めて。
歌を聞いて、泣いた。
5/7/2025, 8:14:31 AM