月詠

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…これは夢だろうか


目の前に推しがいるなんて状況は有り得ない。
だって私と推しは相容れない存在だから。
(そもそも同じ空気を吸えているだけで幸せなわけでして、近づくなんて恐れ多いわけでして…)

頬をつねってみる。―痛くない、やはり夢のようだ。


夢を夢と認識したのははじめてで、戸惑っているのだが…推しが目の前にいるつまり俺がすべきことは…?!


やはり推し様と距離をとること!!←(?)

夢とはいえやはり適切な距離は保たなければ!


にしても、背高いなぁ…。
(私が低身長ということもあるだろうけど…。)


…推しから目を離して、周りを見渡してみる。
私と、棒立ちしてる推し様以外なにもない、真っ白で殺風景な景色が広がる。

目が覚めるまでに何をしましょうかねぇ…。

推し様になにかさせるのもなにかするのも恐れ多いし…。困ったなぁ。


なにもない地べたに座って考え込んでいると、頭上で声がした。

「どうせ夢なんやし、お前のしたいことすればええやん。付き合ったるよ?」

…いつも聞いてる、優しくて、大好きな声、紛れもなく推し様の声だ。


ぱっと顔を上げると、しゃがんで目線を合わせてくれている推し様がいた。

フードの影で目元は見えないが、優しく微笑んでくれているのが分かる。


ああ、そうだ。夢なんだから、私の思い通りなんだ。

なにか吹っ切れた私と、優しい笑みを見せてくれている推し様。


私たちは、私の目が覚めるまで―――

8/3/2024, 11:52:46 AM