生暖かい風がむき出しの首を撫でる。成人からも時が経つ男の体を揺らすことすらできない、その微弱な力に押されるようにして重い足を進めた。まだ冷たさの残る空気はやけに肺を圧迫し、聞き取れるようで聞き取れない言葉の群れは不快でしかない。耳を塞いでしまいたいが、両手で耳を抑えながらのそのそ歩く男など不審でしかないだろう。
おそらく一ヶ月ぶりくらいか。いつの間にか習慣化したこの放浪は、短くて二週間ほど、長くて二ヶ月ほどのスパンで行われている。行き先もなく衝動的にただ気が向いた方へ歩き、現実逃避するだけのくだらない行動だ。自分に酔いしれた思春期のガキとなんら変わらない。
いっそこのまま消えてしまおうか。何度考えたことか。しかし灰になるには些か未練があるようで、どうにもならない現状をどうにかする望みを捨てきれていない。せいぜいできるのは寿命を縮めることくらいだ。鬱々とした気分で煙草に火をつけた。
我ながら愚かしい。こんなことをしていてもどうせ、明日の朝日に目を潰されながら自宅へ帰るだろう。俺はどこまでも地に足をつけているしかないのだから。
『風に身をまかせ』
5/14/2023, 5:24:16 PM