くまる

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私の名はココット。ここ、ハクガヨリキの街で魔法骨董店を営んでいる。
このお店で扱うのは、魔法道具。魔法使いによって、魔法がかけられた特殊な道具たち。この骨董品店に売られた魔法道具は、私がキチンと選別し、修理し、時に魔法をかけ直して貰いながら、販売している。
私自身は、魔法使いでは無い。私の相棒は、いつも掛けている、この眼鏡。それから、机の上の引き出しに仕舞われているペンデュラムの耳飾り。眼鏡を通して世界を見れば、道具にかけられた魔法の有無や強弱が見える。まぁ、逆に言うと、有無と強弱しか分からない。どんな魔法がかけられているのかは、理解が及ばない。そんな時、役に立つのが耳飾りだ。耳に着けて意識を集中すると、魔法道具の声が聞こえる。比較的大きな物、高価な物、使用用途の分からない、どんな魔法がかけられているのか分からない物にしか使わないが。

カランコロン

ドアベルが来客を知らせる。棚にかけていたハタキを下ろし、客人の方へ足を向ける。

「いらっしゃい。何をお探しかな?」

何度も言うように、私は魔法使いでは無い。占い師でも無いので、お客様の欲しい物、要望を盗み見る事は出来ないのだ。相手の欲しい物や要望を、精確に、時に瞬時に、理解して、相応しい物をお勧めする。そんな力があれば、商売も楽だろうか。魔力を持たず産まれてきた私にとっては、叶わぬ夢だ。それでも、「魔法」という不思議なものが大好きで、ここで魔法道具を取り扱っている。

「あの。私、魔法使いじゃないんです。」

「魔法骨董」と看板に掲げていると、「魔法使いじゃない」とやってくるお客様も多い。だが、実際には、4割以上、魔法使い「ではない」お客様だ。

「では、どんな物をお探しかな?」
「ここに、恋が叶うインクがあるって聞いて。」
「ああ、おまじない程度だけれど。おいで、こっちだ。」

若い女学生さんを連れて、棚に案内する。

「これはね、使って手紙を書くと、相手が少しの間、君のことを好きだと錯覚する力がある。」

女学生さんは、ごくりと息をのむ。

「だが、その効果は、ほんの少しの間だけ。告白が成功したら、その効果が切れる前に、相手に自分の事を知ってもらって、本当に好きになってもらう必要がある。」

真剣に話を聞いている女学生の前に、インク瓶に入ったピンクのインクを差し出す。

「どうかな?貴女に少しだけ勇気をくれる、このインク。お値段は、少し高めなのだけれど。」
「……。」

女学生さんは、鞄からお財布を取り出して、中身を確認する。少しだけ顔が曇った。やっぱり、値段が高かったかな?

「……買います。私、どうしても彼とお付き合いしてみたいんです。」

真っ直ぐな目。これだけ真摯に相手の事を思っている、彼女の恋が叶う事を祈りながら、インク瓶をレジ台で包む。

「お買い上げありがとう。幸せが訪れますように。」
「ありがとう。」

インクを渡して、銅貨を受け取る。

「インクを使い終わったら、瓶を売りに出すのもいい。魔法道具は、それだけで高く売れるから。」
「ううん。叶っても叶わなくても。この瓶は、一生、大事にします。」
「そうか。頑張って。」
「はい!」

女学生さんは、インクを丁寧に鞄に仕舞って、笑顔で店を出ていく。どうか彼女が幸せになりますように。こんな時、私が魔法使いだったらいいのに、と思う。ハタキを手に取って、掃除の続きを始める。この魔法道具たちが、沢山の幸せを運びますように。そんな願いを込めながら。

3/18/2025, 10:14:47 AM