薄墨

Open App

スマホがメンヘラムーブかましてる。
起き抜けにアラームを止めて、スマホを起動して、そう思った。

大抵、夜中の間に俺のメッセージアプリには、友人からのメッセージが入っている。
現在、大学生として人生の夏休みを謳歌している身であり、周りの友人達も大抵は、ふわふわとこのモラトリアム期間を謳歌していた。
友人の中には、すっかり夜行性になっている奴や深夜まで遊び回る奴も珍しくなかった。

そんなこんなで、比較的、規則的で健康的な夏休みを過ごすタイプの俺のスマホには、俺が眠っている間に友人からいくらか連絡が来るのが常で、アラームを止めた直後にそれらの連絡を確認するのは、俺の日課となっていた。

だから、今日もいつも通り、通知を確認して、アプリを開こうとした。
メールで大学からの連絡を確認して、友達からの連絡を確認しにLINEへ。

…ところが、タップしても画面が動かない。
開かない。
画面が真っ白になって暗転し、ぴくりとも動かない。

開けられないLINEを前に、しばらく呆然とする。
すると、画面が急に動いて内カメラを起動させる。
慌ててスワイプすれば、待ち受けには戻れる。

一体これはどういうことなんだろうか。
不具合?ウイルス?スマホの故障?神様からの罰?
…とりあえず、大学に行ったら、友達には一言詫びを入れなきゃいけないな、めんどくせぇ。

とりあえずLINEを閉じて、検索エンジンを立ち上げる。
開けられない LINE
検索バーに入力してみる。

不具合やウイルス情報に混じって、都市伝説のサイトが出てきた。
気になって開いてみる。
タイトルはまさに『開けないLINE』。

どうやら、とある曰く付きの心霊スポットの写真が、特定の時間に送られてきたスマホのLINEは開けなくなり、内カメラを勝手に起動し、そのまま内カメラに写ってしまうと、画面に写っている自分と入れ替えられてしまうという話らしい。

これは…。
通知を確認にして、画像の送り主を確認する。
驚いた。俺は都市伝説_いや怪談に巻き込まれてしまったようだ。

これは…。

僥倖だ。
思わず口の端が上がる。
こんな現象を引き起こす怪異とは一体、どんな奴なのだろう。
期待で胸が弾む。

俺は、代々神主を務める家の生まれだ。
そのおかげで、生まれた時から見えないはずのものが見えたし、触れないはずのものが触れた。
初めて怪異に出会って目覚めたのも、4歳くらいの頃だった。

通っていた幼稚園に、怪異が住み着いていた。
煙の塊みたいな、大したことない奴だったが、怖がりな保育士さんを始め、みんなが怖がっていた。

だから。
だから俺は、食べてみたのだ。
モヤモヤの怪異を。
おやつの時間に一緒に。

めちゃくちゃ美味かった。

それからというもの、俺は怪異が大好物になった。
奴らときたら、味も食感も多彩で、飽きがこない。
食べる前に抵抗するやつもいて、そのスリルも楽しくて食前の良い刺激になる。たまらない。

今回の怪異_『開けないLINE』はどんな味がするだろうか?
どんな抵抗をするのだろうか?

ごくりと唾を飲む。
非常に楽しみだ。

とりあえず、画像を送ってくれたアイツには、何かお礼の菓子でも買っておこう。
電子マネーの残高を確認しながら、アイツの好物がなんだったのか、を考える。
一気に目覚めた俺の胃がぐぅとなった。

9/1/2024, 2:04:21 PM