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cloudy


なんかcloudyな空が似合う人だった。
出会ったばかりの頃、彼女にそんな印象を抱いていた。晴れそうにないけど、雨にもならないだろう、そんな淡い灰色の空がよく似合う人──窓辺に座り外を眺める彼女の横顔は、アンニュイな曇り空に溶け込むようで美しかった。触れられそうで触れられない曖昧な余白みたいなものが彼女にはあって、それが僕を魅了した。

けれど僕の伴侶となり年月を重ねた今、彼女に似合うのは、もっとなんかこう……濃い曇天って感じの空だ。重く垂れ込めて空を覆い、いつ稲妻が光って強い雨が降り出してもおかしくない、そんな不穏な曇り空。
濃淡の違う灰色の雲が、刻々と形を変えながら重なり合う様子は、目が離せないほど空を劇的にする。まるで僕を翻弄する妻の機嫌のようだ。だけどどんな暗い曇天でも、その奥には晴れ間が隠されていることを僕は知っている。暗い雲が光を帯びた時、神々しいほどの美しさを見せることも……。
今にも雷鳴がとどろきそうな曇天の中、僕は妻のもとへと向かう。まっすぐ迷わず一目散に。曇りの奥にある光を信じて。

9/22/2025, 7:47:40 PM