木陰

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君と、月を眺めるのが好きだった。
何の変哲もないアパートのベランダでふたり、時に月が綺麗だねと他愛のない話をしながら、時に何の言葉も交わさないまま、変わらぬ明るさを保つ月を眺めるのが私たちの日常だった。夏はぬるい風を浴びながら、冬はふわふわのブランケットに一緒にくるまりながら。言葉あっても無くても、互いの表情が見えてても見てなくても、そこには不安なんて無く、ただただ平穏と優しい人肌がそこにはあった。

そんな過去を想いながら、ひとり月を眺める。
あの頃いた都会からは離れ、ひっそりとした山中に住処を置いた。職も新しくなり、生活も質素なものになり、あの頃とは何もかもが変わった。それでも、毎晩月を眺めることだけは辞められなかった。隣に君がいなくとも。
月の周りを飾るように、星が溢れる。都会の人間は知る由もないであろう美しい景色が目の前に広がっている。でも、本当は溢れる星々なんて要らないんだ。ただ君がひとり、隣に居てくれれば。それとも君は、あの星のどれかなのだろうか。遠くから、私を見守ってくれているのだろうか。どちらにしても、こんな遠くにいってしまっては、君の温もりは感じられない。ねえ、寂しいよ。

今日も、月は綺麗だ。

3/15/2024, 12:27:53 PM