いろ

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【飛べない翼】

 どこまでも雄大な青空を眺めていれば、背後に人の気配を感じた。慣れ親しんだものだから放置していれば、君の手が僕の背中に生えた翼に触れる。
「……ごめん」
 耳朶を打った声は悔悟と罪悪感とでか細く震えていて、今にも消えてしまいそうだ。君へと向き直り、涙で潤んだその瞳を真っ直ぐに覗き込んだ。
「謝る必要はないよ。僕が僕の意思で選んだことだ」
 神々の手で根本を断ち切られた翼は、もう二度とは動かない。時折ジクジクと無意味な痛みが走るだけだ。天界に生まれ神に仕えるべき身でありながら、神の怒りを買った人間を庇い命を救おうとした。僕の翼と天界の追放を代償に、君の命を守ることができたのだから、むしろ安い買い物だろう。
「天界の力の全部をなくした役立たずの僕でも、君のそばにいて良い?」
「っ、当たり前でしょ!」
 力強い肯定に安堵しつつ、君の身体を抱きしめた。
 これからは君と同じ場所で、君と同じように両足で歩いていく。飛べない翼は、君と共に生きる幸福の証明だった。

11/11/2023, 11:47:39 PM