いろ

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【だから、一人でいたい。】

 花火大会の夜は、どこもかしこも人がごった返している。私も何人かに誘われたけれど、結局全部断ってしまった。
 マンションの窓からは、遠くにかろうじて鮮やかな花火が見える。ドンっドンっと鼓膜を揺らす花火の音に耳を傾けながら、一人チューハイの缶を傾けた。
 花火を眺める私の隣に君がいなくなってから、もう三年になる。開け放たれた窓から入り込んでくる夏の湿り気を帯びた熱風が、肌をざらつかせた。
 誰かと共にさわがしく過ごせば、きっとこの胸の痛みは気にならない。君と二人で見た花火の苦く切ない思い出も、騒々しく明るいものへと簡単に上書きされる。だからこの夜だけは、一人でいたいんだ。私はこの痛みを、この思い出を、永遠に忘れたくない。
『え、今の無茶苦茶綺麗じゃなかった?!』
 たかだか花火で何をそこまで盛り上がるんだろうってくらいに全力で楽しんでいた君の姿を、脳裏に思い浮かべる。君と過ごした二年間よりも長い時間を、既に私は一人で過ごしてしまったけれど。それでも君と過ごした時間は、私の人生で最も尊く煌めく、美しいものだったよ。
 あっさりとこの世界から消えてしまった人の面影を辿りながら、私は勢いよくチューハイを煽った。

7/31/2023, 10:23:28 PM