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「俺、東京の大学に行くことにした。」
突然そう言われて、私の思考は停止した。
「そう、なんだ…」
応援の言葉すらかけられなかった。私の顔が曇ったのを見て、「じゃあまた明日。」とだけ言って彼は教室を出ていった。

言わなきゃ。言わなきゃ。言わなきゃ。
私は絶対に後悔する。彼にこの気持ちを伝えなければ

私の気持ちは焦るのに、月日はあっという間に過ぎてしまった。
彼の大学受験も終わり、合否の結果が出た。彼は男友達に囲まれて、教室でスマホに映る合否結果を見ていた。クラス全体が何気なく彼を気にして、ピリついている。彼がスマホの画面をスクロールして、鼓動が高鳴る。
「よっ…………しゃぁぁああ!!!!」
彼が叫ぶと同時に周りの友達が彼に飛びつく。彼の結果は合格だったようだ。私はほっと胸を撫で下ろした。

ついに彼は今日、始発の電車で発つ。
私は見送りに行った。
彼の家族と、数人の友達と、私が居た。
「じゃあ、行ってきます」彼はにこやかに手を振った。
電車の扉が開く。1歩を踏み出しかける彼を
「待って」と引き止めてしまった。
彼が振り返る。私は彼に抱きついた。彼はびっくりしたようだったけど、すぐに抱き締め返してくれた。その手の温もりに、ぎゅうっと心臓が握り潰される。目から溢れる涙を堪えて、“好き”のたった2文字を、私はついに言えなかった。

「……行かないで」

蚊の鳴くような声で、そんな言葉がこぼれた。
彼の腕に力が入って、私はより近くに抱き寄せられる。でも次の瞬間、その手はさっと解かれた。彼は踵を返して電車に乗る。私たちの方を向いて、
「また、帰ってくるから。」と優しい笑顔を浮かべた。その笑顔は、電車のドアで見えなくなった。

私は、電車が去ってから、その場に崩れ落ちた。周りの人が大丈夫かと声をかけてくれたけど、大丈夫ではなかった。私は彼に気持ちを伝えられなかった。酷い後悔が私を襲った。
また会えるって何ヶ月後?1年後?もし私の事なんて忘れてしまったら?
膨張する不安は止まらない。涙がボロボロと落ちる。

私はこんなにも彼のことが好きだったんだ。


10.24 行かないで

10/24/2024, 11:04:21 AM