透明な羽根
羽根を模した飴細工は日の光を受けて輝いている。こんなに綺麗なのに割ってしまうのがもったいない。観光地特有の浮ついた雰囲気に流されてついつい買ってしまった。甘いものは好きだけどこれを甘いもの枠に入れていいのか。周りは外国人観光客か、親子連れ、SNS映えを狙った若いカップル。そのどのカテゴリーにも入らないアラサーの独身男性一人が持つアイテムでは無かった。一応単体の写真は撮るけど、特にカメラが趣味でもないのでいまいちなアングルで写りは微妙。普通に見る方が綺麗。一人で持っているのも恥ずかしくて、ベンチに座って透明な包装を開けてかぶりつく。ほんのりと懐かしい甘さが口に広がる。子どもには戻れないし、流行のものに必死になるほどの若さも無いし、ここで生まれてだらだらと生きているだけの人間。それでもどこか日常を壊してみたくて買った羽根は、すぐに溶けてなくなってしまったけど、どこかへ連れて行ってくれた気がした。
11/9/2025, 11:07:27 AM