Mey

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カーテンから差し込む朝の光に目覚めると、漸く手に入れたと信じた人は俺の隣に居なかった。



『波音に耳を澄ませて』



白いシーツに横たわっていたはずの彼女の痕跡を探るように手を這わす。そこは人がいた形跡はなくシーツの冷たさだけがあった。
下着だけを身につけていた俺は、床に落ちていた浴衣を羽織り帯をゆるく結ぶ。脱がしたはずの彼女の浴衣は着用前のように整然と畳まれていた。

元カレのことをやっと忘れてくれて、付き合うことができて、二人旅の昨夜、漸く身も心も結ばれたと実感できた。俺のことを好きになってくれて、幸せだと実感した翌朝、彼女が隣にいないなんて。

宿の温泉に行ったとも、ロビーでモーニングコーヒーを味わっているとも思えなくて、だけど一縷の望みは捨てたくなくて廊下を見渡しながら玄関まで歩く。
俺の靴だけが下駄箱にポツンと残されていた。
靴に履き替え、波音と潮の香りに導かれるように砂浜へ足を向ける。

白いワンピースを着た彼女は白い砂浜の波打ち際にひとり佇んでいた。
朝陽が海面を照らし金色にキラキラ光っている。
さざ波が浜に打ち寄せ砂浜を濃く濡らし海へ還っていく。
終わることのない繰り返しに彼女は微動だにせず、波音に耳を澄ませているよう。

何を思っているのだろう。
きっと、俺のことではなくて……





『波音に耳を澄ませて』

7/6/2025, 7:01:29 AM