創作 「バカみたい」
谷折ジュゴン
「バカみたいってさ、少なくとも自分はバカではないと思ってる人が言うセリフだよね」
書きかけの原稿用紙をシャープペンで打ちながらそう言った彼女は、俺に目を向けた。
「どうしたの、いきなり」
「えぇ?だってさ本来の自分は賢いから、こんなふうにバカな真似もできるんだぞーって自分に酔ってる感じじゃん。なんか、腹が立つ」
彼女は口を尖らせ窓の外を見る。
「いや、だからどうした」
「バカみたいって言える女になりたい」
「新作のセリフ……かな?」
「はぁ、きみはバカみたいとバカ野郎、どっちが傷つく?」
彼女が苛立った声で尋ねる。
「正直、どっちも嫌かな」
苦笑いしつつ答えると彼女は満足そうに微笑み、原稿の続きを書き始める。
「このつかい方ならバカみたいの方が少し救いがあるね。だって、相手は賢くはないけどバカじゃないから」
「要は平凡ってこと?」
「そ。ってことできみは傷つくことはない」
「なんか、妙なこと言うね」
「それはどっちの意味?」
「良い意味」
彼女は得意そうにシャープペンをカチカチとならした。
「私ばっかり見てないで、早く課題仕上げなよ?」
「はい」
ある日の部室での 一幕であった。
(終)
3/22/2024, 10:51:09 AM