初めてkissをしたのは、飼い猫だった。
名前は「トラ」といった。
トラ柄だったから母がそう呼び始め、家族みなに定着しのだが、いまおもえば相当ベタな名付け方だな、と思う。
トラは、いつも私の側にいた。
勉強するときも、寝るときも。お風呂に入っているときでさえ、風呂場のドアの横に丸くなって待っていたのだから、本当に私のことが好きだったんだな、としみじみする。もちろん、私もトラのことが大好きだった。
そんなトラも22年も生き、寝てばかりの毎日になったある夜、私はいつものように布団で本を読んでいた。
トラは、本のページをめくるたび、少しだけ耳を動かした。その様子が愛おしく、私はトラの背中を優しく撫でた。するとトラは、私の方に顔を向け、真っ直ぐ私の目を見つめてきたのだった。
しっかり目を開けたトラをみるのは久しぶりで、随分歳をとったというのに、キラキラした美しい瞳だった。
私はたまたま恋愛小説を読んでいたこともあり、見つめあうわたしたちは、なんだか恋人同士のようだな、と笑ってしまった。
私が目を瞑ると、まるでkissをするかのように、トラが鼻を私の唇にちょん、とつけてきた。その仕草が可愛くてたまらなくて、私はトラをぎゅっと抱きしめたのだった。
数日後、トラはこの世を去ってしまったが、あの日読んでいた恋愛小説はいまも本棚にあり、その背表紙をみるたび、大好きだったトラを思い出すのである。
2/5/2026, 4:15:20 AM