薄墨

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視界がぐるぐる回っている。
強い色が瞼の裏に閃いては、消えていく。
ノイズがごろごろと脳裏を廻る。

見えている景色が歪み、傾き、揺れる。
喉が掠れている。
バグみたいな視界は、なんだか不気味ではあるが、むしろ心地いい。
身体を深く沈め、ぐるぐると回る視界に身を任せる。
視界の端でも中央でも、賑やかに色が閃いている。
色鮮やかで私の腰ほどもあるイモムシが、ちこちこと視界を横切っていく。

私は今日、学校を休んだ。
熱があったのだ。

だから、今日は、親に職場から欠席連絡を入れてもらって、布団に沈み込んでいる。
なにしろ明日には遠足がある。
熱でだるいこの身体をなんとしても休めて、明日には復活しなければならないのだった。

39度まで上がった熱を下げるため、私は真昼から布団に潜り、水分をとったりトイレに行ったりする以外は、布団の中で安静に目を瞑っている。
そして、瞑った目の瞼の裏で、こうして閃く真昼の夢をずっと見つめて、浸っているのだった。

イモムシがゆっくりチコチコと、マーブル状に色を飲み込んだ空間を過ぎっていく。
床からぽこり、とキノコが生えて、床に溶ける。
ぐるぐる回る視界の中で、ごろごろぐるぐる、と何かが唸っている。
赤いランドセルが、現れ、すぐに空間の色彩に溶け去っていく。
青いスクールカバンが、視界の端で、歪む空間と一緒に混ざり合う。

真昼の夢は不可解だ。
何も分からないし、何を表しているかも分からない。
ただ、それらは渦巻き、うねり、混じり合いながら、私の周りを満たしている。

不可解で、不条理で、不安定。
けれど、何故だか心地良い。

私は、身体を、真昼の夢の世界に横たえ、沈める。
心地良いカオスに身を委ねる。
視界がうねる。
ぐるぐる回る。

うねった視界を、イモムシのようにひよこが連なった変な生き物が過ぎっていく。

幼鳥だ。

私は目を深く閉じ、真昼の夢に身を託す。
真昼の夢に、真昼の夢の中に浸る。
浸ってゆく。

7/16/2025, 10:48:11 PM