NoName

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 遠くに彼の小さな背中が見え、私は地面を蹴った。
 だんだんと近付いてくる私の足音に気が付いた彼はゆっくりこちらを振り返る。
 私の姿を視界にとらえた彼は表情を緩めて笑った。
「あ、いた」
 その言葉に私の胸がきゅっと小さく萎む。ゆっくり元に戻ったかと思うと、今度は大きく弾み始める。
 彼がふいにこぼした言葉は、愛を謳うものではなかったけれど飛び跳ねて喜びたくなった。
 だって、それは私を探していたってことだから。


 ──君を探して

3/14/2025, 5:13:14 PM