大切なもの
知らない内に俺の目は随分と悪くなったし、心も鈍くなっていたらしい。失ったものの大きさに、後になって気づくんだからさ。
――この感傷も、煙草の煙みたいに消えちまえばいいのにな。
その思いに応えるように強い風が一つ吹く。しかし、消えるのは煙だけだった。グシャグシャになった髪の毛を直しもせず、暮れていく空をベランダから眺め続ける。煙草は灰になっていく。でももう誰も、俺に声をかけてくれはしなかった。
どこからか夕飯の匂いが届く。いつかこの部屋に満ちていた匂いと似ていて、視界が歪んだ。
日々家
4/2/2024, 11:43:48 AM